電験三種の電力 火力発電、T-s線図とP-V線図を押さえる
T-s線図とP-V線図がわかると熱サイクルがわかる
火力発電のうち、蒸気の熱エネルギーを機械エネルギーに変換して発電するものを汽力発電といいます。汽力発電の熱エネルギーの流れを熱サイクルといいます。熱サイクルを考える場合、T-s線図とP-V線図というグラフを使います。T-s線図は、温度(T)を縦軸、蒸気が得た熱量の変化エントロピー(s)を横軸にしたグラフです。P-V線図は蒸気の圧力Pを縦軸、蒸気の体積Vを横軸にしたグラフです。
■熱サイクルとは?
汽力発電では、燃料を燃焼させ、熱エネルギーで給水を加熱して蒸気を発生させます。蒸気はタービンで仕事した後、排気され復水器に入ります。復水器で冷却されて水に戻ります。(復水といいます。)復水は再び給水として加熱され蒸気となります。
この連続した流れを熱サイクルといいます。(図1参照)
汽力発電の最も基本的な熱サイクルをランキンサイクルといい、断熱変化と等圧変化から構成されています。
断熱変化・・・外部からの熱の出入りを遮断し、膨張または圧縮変化をするときの状態
等圧変化・・・圧力を一定として受熱、放熱する状態
■熱サイクルとT-s線図、P-V線図の関係
図2は、ランキンサイクルの図です。
ランキンサイクルを表すグラフには、温度とエントロピーで表したT-s線図、圧力と体積で表したP-V線図があります。
※エントロピー:熱を加えたり、奪うときに増減します。断熱変化ではエントロピーは不変ですが、等温変化では変化します。
図2に対応するT-s線図を図3、P-V線図を図4に示します。
断熱圧縮A-B:給水は給水ポンプにより加圧されボイラに送られます。
(水なので体積は変化せず、温度が上昇する)
等圧受熱B-C:給水はボイラで熱を得て、飽和水から乾き飽和蒸気となり、加熱蒸気になります。
断熱膨張C-D:タービンの中で断熱膨張してタービンを回します。蒸気は圧力、温度とも下がり、湿り飽和蒸気となります。
等圧放熱D-A:タービンから排出された湿り蒸気は復水器に入り。放熱して水に戻ります。
水蒸気の特性
水を熱すると、水温が上がり沸点に達します。沸点に達した水をさらに熱しても温度は上がらず、熱量は水を蒸発させるために消費されます。沸点は圧力が増すと高くなります。
飽和温度 :ある圧力対する沸点
飽和水 :飽和温度の水
飽和蒸気 :飽和温度の蒸気
湿り飽和蒸気:水分を含んだ飽和蒸気
乾き飽和蒸気:水分を含まない飽和蒸気
乾燥飽和蒸気:飽和蒸気をさらに加熱した蒸気
過熱蒸気 :乾燥飽和蒸気をさらに加熱した蒸気で、加えた熱量に比例して温度が上昇します。
■例題で覚える
例題1 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
図5のT-s線図において、等圧受熱はどの部分か、正しいものを次のうちから選べ
(1)A→B (2)B→C (3)C→D (4)D→A (5)A→D
解き方 答え (2)
図3より、等圧受熱はB→C
A→Bは断熱圧縮、C→Dは断熱膨張、D→Aは等圧放熱となります。
例題2 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
図6のP-V線図において、断熱膨張はどの部分か、正しいものを次のうちから選べ
(1)A→B (2)B→C (3)C→D (4)D→A (5)A→D
解き方 答え (3)
図4より、断熱膨張はC→D
A→Bは断熱圧縮、B→Cは等圧受熱、D→Aは等圧放熱となります。
■電験三種での出題例
図7は、汽力発電所の熱サイクルを示すT-s線図である。ボイラの過熱器は、図のどの部分を受け持っているか。正しいものを次のうちから選べ。
(1)1→2 (2)2→3 (3)3→4 (4)4→5 (5)5→6
答え (4)
解き方
給水ポンプ→ボイラ→タービン→復水器も間では、水は次のように状態が変化します。
1→2:給水ポンプで加圧される。
2→3:ボイラで飽和温度まで加熱される。
3→4:ボイラで蒸発し飽和蒸気になる。
4→5:過熱器で過熱され過熱蒸気になる。
5→6:タービンで断熱膨張し仕事を行い、温度、圧力が下がる。
6→1:復水器で冷却され水に戻る。
出題例は、T-s線図から汽力発電の設備(過熱器)の役割を考える問題です。これをP-V線図を使って求める問題、あるいはグラフから水の状態変化(断熱膨張、等圧受熱など)を求める問題も出題されます。熱サイクルとT-s線図、P-V線図を合わせて学習することで、熱サイクルの問題への対応力がアップしますので、ぜひマスターしましょう。