電験三種の機械 変圧器の基本 巻数比と電圧比、電流比を押さえる
変圧器の仕組みを理解すると、機械、電力、法規に使える
変圧器は電力会社から送られてくる交流電圧を家庭用など目的にあった電圧に変える機器です。変圧器の基本を学習するときには、理想的変圧器で考えるとわかりやすくなります。今回は理想的変圧器を使って、変圧器の基本である巻数比と電圧比、電流比の関係を解説します。
■理想的変圧器とは
理想的変圧器とは、次の3つの条件を満たす変圧器のことです。
1.巻線(コイル)の抵抗がない。
2.磁束は全部鉄心を通る。(磁束が鉄心の外に漏れない。)
3.鉄心の損失がない。(磁束は磁化の方向を変えたり、渦電流を流すため、少しのエネルギーを消費します。)
実際に理想的変圧器を作ることはできませんが、変圧器を学習する場合には、このような変圧器があるものとして考えます。
■巻数比と電圧比、電流比の関係
P:一次巻線 S:二次巻線 φ :磁束 :磁化電流
理想的変圧器に二次側を開放し、一次端子に電圧 〔V〕を加えるとわずかな磁化電流
〔A〕が流れ、鉄心中に交番磁束(交流のように変化する磁束)
ができます。この
により一次巻線(巻数は
)に起電力
〔V〕を誘起します。同時に、二次巻線(巻数は
)に起電力
〔V〕を誘起します。この起電力
〔V〕と
〔V〕の比
は、巻数の比
に等しく、 aで表します。このaを巻数比といいます。
(理想的変圧器の巻数比)
二次端子の電圧 〔V〕は、無負荷のとき二次電流が流れないので
となります。一次電圧
〔V〕と二次電圧
〔V〕の比、電圧比は次のようになります。
(電圧比のことを変圧比ともいいます。)
図2のように電源電圧 〔V〕を加え、二次端子に負荷(インピーダンス )を接続すると負荷に二次電圧
〔V〕が加わりますので、
〔A〕の電流が流れます。この
を負荷電流といいます。このとき、一次側には負荷電流に相当する
〔A〕が新たに流れます。そのため、一次に流れる全電流、すなわち
は、磁化電流
と の合成電流
となりますが、磁化電流はとても小さいので、
≒
です。
一次電流と二次電流の比を電流比または変流比といい、次のように表せます。
(電流比は巻数比の逆数)
■例題で覚える
例題1 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一次巻線の巻数が100、二次巻線の巻数が2000の理想的変圧器がある。一次側電圧を50〔V〕とすると、二次側電圧〔V〕はいくらか。正しい値を次のうちから選べ。
(1)1000 (2)2000 (3)3000 (4)4000 (5)5000
解き方 答え (1)
より、
→
〔V〕
例題2 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一次巻線の巻数が100、二次巻線の巻数が2000の理想的変圧器がある。一次側電流を50〔A〕とすると、二次側電流〔A〕はいくらか。正しい値を次のうちから選べ。
(1)0.5 (2)1.0 (3)1.5 (4)2.0 (5)2.5
解き方 答え (5)
より、
→
〔A〕
■電験三種での出題例
定格容量20〔kV・A〕、定格一次電圧6600〔V〕、定格二次電圧220〔V〕の単相変圧器がある。一次側に定格電圧を加え、二次側にインピーダンスが2.5〔Ω〕の負荷を接続したときの一次巻線を 〔A〕とする。定格運転時の一次巻線の電流を
とするとき、〔
〕 〔%〕の値として最も近いものは次のうちどれか。ただし、変圧器は理想的変圧器とする。
(1)89 (2)91 (3)93 (4)95 (5)97
答え (5)
解き方
問題を図に表すと図3のようになります。
①負荷電流 は、
〔A〕
②電圧比(変圧比)a は、
③負荷 Zを接続したときの一次電流 は、
→
より、
≒2.93〔A〕
④定格運転時の一次電流 は、定格容量
〔kV・A〕、一次電圧
〔V〕から、
≒3.03〔A〕
⑤よって、〔〕 〔%〕の値は、 〔
〕≒96.7=97〔%〕
電圧比と電流比は変圧器の基本です。変圧器は電験三種で学習する機器の中で出題の多い機器で、機械の他、電力や法規でも出題されます。変圧器の基本を理解することで、機械、電力、法規の問題への対応力がアップしますので、ぜひマスターしましょう。